西島俊秀が出演すると聞いたら、それなりに期待をしてしまうのが当然だ。が、その期待はもろくも崩れ去ってしまう。

まず、この映画は東京に爆弾をしかけ、爆発事件を起こしその犯人を追うというのがメインのプロットなのだが、それと同時並行で、この映画は群像劇のスタイルを取っているので、メインキャラクターがころころ劇中で変わるという難解さがある。そういう映画って、ふつうは青春映画など何気ない日常を切り取った映画に多いスタイルだが、この爆破事件というミステリ・パニック・サスペンスのジャンルで登場人物がどいつもこいつも過去のあれこれを抱えているだとか、おもわせぶりだとかは、なかなか本筋を追うのが難しくなってしまう。

以下ネタバレを含みます。

「アンフェア」シリーズなど手がけた秦建日子がジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆した小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」を映画化したクライムサスペンス。佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊らの豪華キャスト陣を迎え、「SP」シリーズの波多野貴文監督がメガホンをとった。クリスマスイブの東京。恵比寿に爆弾を仕掛けたという一本の電話がテレビ局にかかって来た。半信半疑で中継に向かったテレビ局契約社員と、たまたま買い物に来ていた主婦は、騒動の中で爆破事件の犯人に仕立て上げられてしまう。そして、さらなる犯行予告が動画サイトにアップされる。犯人からの要求はテレビ生放送での首相との対談だった。要求を受け入れられない場合、18時に渋谷・ハチ公前付近で爆弾が爆発するというが……。

映画.comより

石田ゆり子の動機が浅くて謎、というか、旦那も謎。謎ではないが、論理が飛躍しすぎてついていけない。結局この映画は平和ボケした日本人に警鐘を鳴らすという大義名分があるのだが、そこに至るのが旦那がたった一人の少女の巻き込み自殺という(そのせいで旦那は足に障害を負ってしまうのだが)「え、それだけ」と思わざるを得ないもので、それがなぜ東京で大爆発を起こして数百人規模の死傷者を出す日本歴史に残る大テロ事件を起こすとは、倫理観がぶっ壊れているか病んでいるかそのどちらかだろう。

1時間40分強と尺が短いのに佐藤浩市に石田ゆり子、西島俊秀、中村倫也、広瀬アリスと各人がメインキャラクターの働きをするからキャラが渋滞、整理がつかない。

まず合コンで知り合って一方的に好意を寄せている相手が爆破事件に巻き込まれて、それをその子の友人である広瀬アリスに「心配じゃないの!!??」と責め立てられる中村倫也が気の毒だ。しらんがなの一言である。

その中村を広瀬アリスたちはクリスマスの渋谷で見つけるという奇跡に、刑事である西島俊秀も彼を見つけるというダブル奇跡。そしてもともとなんとなく中村にめをつけていた西島だったが、だからといって何が起きるわけでもなく、ただ見つけるだけで、結局犯人への核心はすべてタレコミという受動的姿勢。刑事らしい行動は無駄に拳銃を突き付けるシーンだけだ。

また、広瀬アリスが中村倫也の家に行くのもやべえし、そこで雑にしまわれた爆破に関する資料を見つけちゃうアリスも、施錠一つせず机の引き出しからすいーってあけれちゃう無防備さも、というかどうして机の引き出しを迷うことなくあけようとしたのかも、すべての行動が謎。そしてパスワードロックすらしていないPCに、開いたらすぐ爆破事件のときの映像がテレビに映し出され再生されるのも意味が分からない。

というかあのあとどうしたのか、黙って持ち出したのだろう。だとしたらあまりに中村は暢気すぎないか、すぐに音に気付いてアリスのもとへ戻るべきだったのでは、ほかにも追いかけるなどやるべきことはあるはずだ。なにを普通に暮らしてなんだったら資料がとられたことがなかったかのように平然と自らの計画を実行し続けているのか。疑われるのは自分なのに。そして見事に警官に(あろうことか一般人がいるであろう喫茶店でしかも単独行動と独断で)銃を突きつけられているのに。そしてただの素人に拳銃を振りほどかれる間抜けな西島俊秀。すべてがあっちゃー-である。

最後にレインボーブリッジへ行くシーンでも、なぜ車内は犯人一味だけなのか。警官一人も乗っていないなんて愚かにもほどがあり、しかもその車を先頭に走らせて結局身勝手な行動をとらせて被疑者は二人とも死亡した。日本史に残るテロ事件の犯人をみすみす死なせてしまった西島はなぜ厳罰を受けた様子もなく、しかも報道も制限され名前等は一切公表されていないというお花畑社会。

youtube的なものに脅されて犯人役を演じさせれた若者は、なぜか普通に社会復帰できている。犯人の名前も顔も明かされていないのに、彼がなぜ社会から厳しい偏見や差別の目にさらされずに普通に暮らせているのか、その理由も不明。普通なら顔を指され就職もできず、PTSDなどの症状でメンタルケアが必要なはずだ(しかも彼は自らの潔白を証明する機会であった取材すら逃げ出して断っているのだ)。あまりに不可解な社会に、これは悪質なコメディなのではないかと勘繰ってしまう。

西島俊秀とその上司?との過去の思わせぶりなシーンや、首筋を触って「なんかありましたよ」と伝えるシーンも全くこの映画に関係なく必要がないし、中村倫也の父親と母親の喧嘩もよくわからない。ラストの移動中に佐藤浩市らから電話がかかってきて、中村倫也にとらせるも、なぜかスピーカーにせず、となりで運転する西島俊秀は「解除コードはなんだ!!」と切れ散らかすバカっぷり。スピーカーにすればいいのに。ずっと思っている。というか盗聴器も仕掛けないし、同乗もさせないしで、日本の警察は頭腐っているのか。(まあ爆弾を犯人が持っていて、同乗したら爆破すると脅した可能性も否定できないが、なおさら車に盗聴器はなんとかしかけるよね、とは。。。)

ただ、爆破シーンはすごかった。日本の映画でここまでちゃんと爆破するって珍しいというか。予算も時間も人手もかけたくないけち臭い日本映画のありがちな、爆破しそうなところで間一髪止めるとか、実は誰かの妄想でしたというパターンではなく、劇中、事件がちゃんと起こる。それはすごい。ただそのあと救護班が痛いともなんとも言っていない広瀬アリスに近づいて痛み止めらしい錠剤をポイって渡したのは医療シーンとしては雑すぎる気もする。

全体的にやりたいこと、言いたいこと、映したいことが先行しすぎて映画のフォーマットに全くうまく乗せられていない、無駄豪華フルコースのディナーのようだった。全くもって無駄。そして時間が足りずだれの描写もあいまいで、中途半端で、だから行動の動機がそれぞれちぐはぐ。こちらで補うほかなく、それは映画というよりはMVのような、なんか断片映像を見せられているようでひどく疲れたし、爆破シーン以外イライラするところしかなかった。人物描写もステレオタイプばかりで(寡黙で笑わない女に興味ないIT起業家、ひとりだけ服装が変なヨレたジャケットの頭キレる刑事、うっとおしいしんでせいせいするyoutuberなど)全く新鮮味もなく、キャラクター設計すらずさん。あと、結局テロ首謀者がすごいいい人って感じで終わるのも納得できない。戦争なんてダメだ!みたいな論調のはずの犯人たちがもっとも悪質なテロを起こしている不条理さ。さすが電通。「爆弾はまだあります。あたのそばに。」はさすが電通といったクソサムワード。あいかわらずセンスのない会社。今年のワーストムービーに入っても仕方がない出来だった。