冒頭10分の激痛シーンに耐えられるか。そこを乗り切れば、この映画は非常に楽しめるはずだ。阿部演じる榛村のサイコパスっぷりはもはや憑依したレベルで、いまさら彼を誉める言葉などないが、それにしても気持ちがわるい。ネタバレになるので詳しくはさけるが、予告にもある、冒頭の阿部が水路沿いで桜の花びらをはらりと落とすシーンは、映画を見終えた後にはまったくもって別に見え、そして気分が悪くなる。よくもあんなに悪い画がとれたもんだ。監督は孤狼の血も撮った白石和彌だがおそらくしてやったりなんだろうと思うが、趣味が悪い。そして最高だ。

「凶悪」「孤狼の血」の白石和彌監督が、櫛木理宇の小説「死刑にいたる病」を映画化したサイコサスペンス。鬱屈した日々を送る大学生・雅也のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村から1通の手紙が届く。24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。「彼女がその名を知らない鳥たち」の阿部サダヲと「望み」の岡田健史が主演を務め、岩田剛典、中山美穂が共演。「そこのみにて光輝く」の高田亮が脚本を手がけた。

映画.comより


パン屋さんにしたのは、最も殺人とは遠い存在だと思ったから、と語る原作者の櫛木理宇だが、それは見事に的中していて、まんまと気分の悪さは増幅させられる。そして特筆すべきは岡田健史。彼は見事な演技をこなし、最後まで狂気と臆病を行き来していた。無口で笑わない役はたいてい演技の下手な役者にあてがわれるのだが、彼の場合は違った。最初の方こそぼそぼそと邦画特有のつまらない人物を演じていたが、中盤以降は徐々に躍動していた。
ひとつ驚いたのが、相馬という金山の同僚の男を演じたコージ・トクダは、ブルゾンちえみと共に一生風靡した芸人で、それが非常になめらかで自然だった。おもわずだれだろうと検索したら彼だと知り、自分の演技の評価に狂いがあったのか(もともと自分には演技の良し悪しを見極める力などないが)、あるいは彼がそれだけの才能やスキルを持っていたということをまだだれにも知られていないだけなのか、どちらにせよ非常に自然だった。もちろん、演技は自然体なものだけでなく、叫んだり怒ったりするものも重要な要素になってくるのであれだけでは判断できないが。とにかく、私は彼の演技に見入ってしまった。

最恐最悪の阿部サダヲはファンなら絶対に見なきゃだめだ。ちなみに私はこの映画を鑑賞後、綾鷹のCMでへらへら急須を見つめた後、「ひらけええ」と唱えニヤつく演技を見て、心底気持ち悪くなってしまった。サイコパスにしか見えん(それにしてもこのCM誰も話題にしないけれどかなり変だと思う)。