事務所の力

聞いた話では、2017年くらいにあいみょんが少しずつ界隈で騒がれ始めていよいよブレイク前夜となるころ、レーベル会社のお偉いさんに



「おまえ、これから忙しくなるから覚悟しとけよ」


といわれたらしい。

真偽のほどは定かではないが、仮にそうだったとしたら、それは暗に「会社が売ろうと本気になればなんだって売ることができる」ことを示唆している。

もちろん、それであいみょんを下げようなんて魂胆じゃない。その会社に「こいつなら売れる」と思わせる能力や世間とのニーズの一致など、様々な運と実力がないと会社はお金を使って動かしてくれない。まずそこにたどり着くまでに、相当ハードな道のりが待っているのは言うまでもない。

ただ、やはり売る気になればなんだって売れる。プロモーションの掛け方ひとつで、ラジオで流す数ひとつで、深夜の音楽番組に出られるか否か、様々な方法で世間一般に浸透させ、流行へとつなげていく。それが彼らの仕事でありプロフェッショナルなのだ。

と、ここまで話してタイトルが「Little Glee Monster」なんだから大体察しが付くと思う。

Little Glee Monster(以下、リトグリ)っていつからこんな地位に上り詰めたの?という疑問だ。



お茶の間の前のリトグリ

これは私だけの疑問ではなく、多くの一般層の疑問だ。



個人的にリトグリを知ったのは2015年。「青春フォトグラフ」という曲で知った。まだあまりセルフィー用の棒が浸透しきっていなかったときに、「へえこれがその棒か」と思ったのが印象に残っている。正直曲どうこうは何も感じなかったが、今っぽいなあと思ったのは覚えている。

と思った束の間、音楽の日2015、MUSIC STATIONに出演し、そんな人気だったのかと面食らった。正直バンド界隈なら自分でもそれぞれのバンドの人気ぶりはよく知っているし、いくらフェスでブイブイ言わせているバンドでも中々MUSIC STATIONに出られない事実を知っていたので、彼女たちが突然MSUIC STATIONに出たことはなおさら驚いた。

その後はもう皆さんの知っている通り。ドラマの主題歌をしたり、特番には必ず出演して他アーティストのカバーをしたりと、貪欲にメディア露出を試みた。多くの人が認知したのは「保険は、フッフゥー」と軽快に歌っているあのCMだと思う。

ただ大前提として、彼女たちが売れた要因を安易にひとつに絞るつもりはないこと、ごり押しのグループだというつもりはないことを理解してほしい。もちろんまずメディアに大量露出させ、認知を拡大してそこからファンを増やしたことは間違いないが、それだけのグループでないのは、今までの活躍ぶりを見ればわかるはずだ。そんな単純な世界ではない。第一に彼女たちの努力の賜物であることは言うまでもない。

しかし、特に音楽にあまり興味ない人たちは
「彼女たちってなんでテレビに出てるの?」

と思いがちだ。私の友人は事実そういったし、両親もそんな発言をしていた。
(最近は実家に帰るたび新しいアーティストを知っていて逆にビビる)

何人かの意見を拝借する。

「リトグリっていつヒットしたん」

「リトグリって全然歌上手くないのにめっちゃでてくるよな」

「人の曲しか歌わんやん。下手やし」

なんとも散々な言われようである。もちろんねつ造じゃない。
ちなみに私はある程度の歌唱力になると、あとは違いなんてわからないので、リトグリが歌うまい”風”のなんちゃってなのか、本当に歌がうまいのかわかるはずもない。というかどっちでもいい。曲さえよければ別に口パクでも構わない派なので歌のうまさが大したことなくてもそれは問題でないのだ。

とまあ擁護できているのかどうか怪しいが、とりあえず「歌うまグループの割にはしょぼい」と思われているのが彼女たちらしい。
言葉を変えると、彼女たちは世間に曲として認知される前に、メディア露出を試みた。

最近のトレンドである
ネットなどで曲が話題になる→認知度が若い人から上がる→テレビが取り上げる→幅広い世代に知られる
という順番ではなく、
それなりにファンを獲得する→テレビに出て認知を広げる→いつのまにか私たちの生活の一部に入り込む→ファンを拡大させる
という、ある意味90年代までに主流だったやり方で彼女たちは大きくなってきた。

だから今の時代に適応しすぎた私たちには「だれに人気あるの?」と思ってしまう。でもちゃんと大きなステージで歌っていることが彼女たちの人気を図る物差しと証左になっていることは付け加えておきたい。


オーディションで集められたリトグリ

実はリトグリがオーディションで集められた子たちだという事は意外と知られていない。

──Little Glee Monsterはソニー・ミュージックレコーズとワタナベエンターテインメントが主催した「最強歌少女オーディション」の合格者を中心に結成されました。皆さんそれぞれ歌が大好きでオーディションを受けたと思いますが、最初はグループを結成するとは思ってなかったわけですよね?
芹奈:はい。最初はソロ歌手としてデビューしたいという夢があったから正直不安な部分もあったんですけど、まずグループというのが新鮮で。1人だとできないこともできるし、すごく楽しみだなって。これからずっと一緒に頑張っていこうと思うようになりました。
manaka:私は最後に加入したんですけど、そのときに「今日からLittle Glee Monsterでいいんだね?」と聞かれて、思わず「はい」と答えてしまった瞬間はめっちゃ怖かったです。けど本格的に活動しだしてから、メンバー1人ひとりが私のことを助けてくれて「あ、私ここにおってもええんや」と感じたときに、このグループにちゃんと自分を委ねて頑張ろうと強く思いました。
麻珠:私もmanakaと同じ感じで、最初はちょっと不安もありました。レッスンも厳しいし、周りの人がみんな怖く感じられて、毎日が恐怖だったんですよ(笑)。本当に毎日、家に帰ったらずっと泣いてるっていう。
MAYU:確かに怖かった。
麻珠:でもレッスンしていくうちに、この世界は甘くないんだなってことに気付いて。それからはみんなが相談に乗ってくれて、打ち解けていくうちに楽しいなって思うようになりました。

●厳しいオーディションを勝ち抜いて選ばれたそうですが、何歳の時に何がきっかけでオーディションを受けられたのですか?
アサヒ:小学校6年の時にこのオーディションに参加しました。歌手になりたくて、参加して、色々と合宿を重ねてきました。
manaka:アサヒ何回くらい合宿してる?
アサヒ:中二まで、夏休みとか冬休みとか、長い期間の学校がお休みの時は歌とかダンスや演技を勉強するため、ずっと合宿していました。

オーディションで集められたグループなどはこうした過酷なトレーニングがつきものだ。
たまに有名なボイトレ講師の密着映像がテレビで放送されることもあり、それを見る限り、やはりただの歌うま素人からプロになるには相当な厳しいトレーニングが必要であることが分かる。

彼女たちもその例に漏れることなく「毎日泣いていた」と振り返るほどの厳しいレッスンを積み重ねてきた。だから無条件でほめたたえる、という事はしないが、決して過小評価だけはしたくない、とも思う。

要求をのみ込むリトグリ

なにより彼女たちは自我を出さない。テレビ局側の要望をちゃんと飲み込む。

他人の曲を歌えと言われれば歌うし、コラボしろと言われればコラボする。歌がうまくてどんな曲でもそつなくこなせる若い女の子をテレビは重宝する。昔から慣例的に行われてきたことではあるが、リトグリは忠実にそれを守ってきている。だからこれほど露出ができ、そしてその誠実な態度と親しみやすい楽曲でファンを拡大してきた。

6月に放送されたNHKの「シブヤノオト」ではリトグリを愛する世界各国の人たちが思う存分リトグリ愛を語っていた。歌唱力はもちろん、ダンスにも注目し、絶賛していて、イタリアの女性は部屋にポスターを飾っているそうだ。

どれだけ内部で拗れることがあってもステージ上では一点の曇りもなく完璧なハーモニーで言語を問わず世界の人を魅了する彼女たちを、今更「誰に人気があるんだ」と問うのも野暮かもしれない。

まとめのリトグリ

確かに熱狂的なファンを浮かべにくいジャンルのアーティストかもしれない。自分たちの歌を披露できる機会ばかりでもなく、「あの曲やって」、「あの曲カバーして」という要望に忠実に答えていけばいくほど、彼女たちのスタンスがあやふやに見えてしまうかもしれない。

でもそれも一つの彼女たちの姿だ。
その謙虚で嫌な顔一つせずきちんと仕事を一つずつこなしていく彼女たちに魅了されている人たちがたくさんいる事実をおろそかにしてはいけない。

ただ、その生き方はなかなか芯を食ったアーティストになることも難しいことも事実としてあるかもしれない。

私はリトグリをもうしばらく静観したい。