三谷幸喜の映画はどうしようもなく好きだ。細かな設定や笑いや小道具、表情豊かな俳優陣。どれをとっても一級品で、舞台だと1万くらいしてしかも完売御礼でチケット争奪戦になって全然見に行けない!みたいな作品が映画館で2000円以内で観られる。こんなに良心的なものはない。
「ラヂオの時間」も「みんなのいえ」も「THE 有頂天ホテル」も全て好きだ。もちろん好みはそれぞれあるが、笑えてほっこりできる三谷作品に文句のつけようはない(逆に文句をつけたくなるのも三谷作品の魅力でもある)。

三谷幸喜の長編映画監督8作目で、記憶をなくした総理大臣が主人公の政界コメディ。史上最低の支持率を叩き出した総理大臣を中井貴一が演じるほか、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市ら豪華キャストが顔をそろえる。国民からは史上最悪のダメ総理と呼ばれた総理大臣の黒田啓介は、演説中に一般市民の投げた石が頭にあたり、一切の記憶をなくしてしまう。各大臣の顔や名前はもちろん、国会議事堂の本会議室の場所、自分の息子の名前すらもわからなくなってしまった啓介は、金と権力に目がくらんだ悪徳政治家から善良な普通のおじさんに変貌してしまった。国政の混乱を避けるため、啓介が記憶を失ったことは国民には隠され、啓介は秘書官たちのサポートにより、なんとか日々の公務をこなしていった。結果的にあらゆるしがらみから解放されて、真摯に政治と向き合うこととなった啓介は、本気でこの国を変えたいと思いはじめようになり……。

今回の映画はとにかくスマートであるという事に尽きる。あらゆる豪華俳優が所狭しと走り回ってドタバタ劇を繰り広げるいかにも舞台のような作風が特徴の三谷作品だが、なにせスタイリッシュ。きちんとプロットが縦にあって、けっして逸脱しない。いつもは平面的な広がりが大きく、それぞれのキャラクターの状況を把握するのに必死なのに、今回は見やすい。

ということでもうおススメできる。三谷作品が苦手な人でも楽にみられると思う。

本筋を細かく語ると面白くないのでポイントをいくつか。

中井貴一こそすべて!!

とにかく中井貴一。ここまでちゃんと主人公が全ての笑いをかっさらっていくのは珍しい。そして人物描写が細かく、彼の心境変化もちゃんと読める。だから義理の兄のROLLYとのやりとりも、官房長官の草刈正雄の会話もすべて中井貴一が演じる総理大臣の輪郭をなぞってくれる。けっして記憶が戻る前の総理の映像は出てこないのに、私生活も職務についている時も容易に想像がつく。
もちろん彼が素晴らしい役者だなんて1000年前から知っているが、それでもやっぱり「うまい・・・・・!!!」と唸ってしまう。動揺する演技ってかなり難しそうに見えるが、なんなくやってのける。その動揺一つで彼が内心何を思っているのかまで伝わる。本当にすごいなあという感想しかない。

役者一新

三谷幸喜に愛される役者は多い。何作か見ている人なら、「あの人は定番だよな」と思う役者も多いはずだ。例えば西田敏行とか佐藤浩市とか。もちろん中井貴一や佐藤浩市といった主演級は抜群の安定感を持つお馴染みの役者を起用しているが、脇役が珍しい人たちだった。正直あまり見かけない人もいた。今どきっぽさの起用ならムロツヨシとか志尊淳とか出しそうだなあって思ってたのに、出てなかった(個人的に予想してた田中圭は出演していた。そして半分おっさんずラブのキャラに近かった)。
藤本隆宏なんてセリフはあまりないけどずっと端っこに映っていて個性的で印象に残っているし、ディーンフジオカの抜擢は素晴らしかったと思う。特に宮澤エマは笑ってしまった。彼女のぶっきらぼうな通訳もだけど、彼女自身の家系もあいまってなんか皮肉な配役だなと思う。普段よりちょっと好きかもしれない。

ディーンフジオカの活かし方

ディーンフジオカは苦手な一人だ。とくに歌手活動の彼はかなりきつい。「ディーンフジオカに早く慣れたいのに」という記事まで書いてるくらいに苦手である。
でもこの映画は彼がいてこそ面白くなったともいえる。クールで有能なキャラクターはディーンフジオカにピッタリだ。それでいてちょっと愛せるキャラなのも好感持てる。配役に恵まれたかな。
王子様キャラが板についた彼だけど、どれだけ有能でもトップにたどり着けない劣等感とかもあって、いつもの彼らしくない、あたらしい一面が見られた。




そんなこんなで、バツグンに面白い映画だったので、早めに見ることをお勧めします。