上映時間3時間半。圧倒的なボリュームで描き出す一人の殺し屋の人生。殺し屋と言ってもそんなゴルゴ13みたいな描き方ではなく、もっと生々しくもっと人間味あふれる作品だ。

マーティンスコセッシとロバートデニーロの黄金タッグによってつくられたこの作品はある意味遺作とも捉えられるような、それくらいの会心の一作だった。

「タクシードライバー」「レイジング・ブル」など数々の名作を生み出してきた巨匠マーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロが、「カジノ」以来22年ぶり9度目のタッグを組み、第2次世界大戦後のアメリカ裏社会を生きた無法者たちの人生を、ひとりの殺し屋の目を通して描いた力作。伝説的マフィアのラッセル・バッファリーノに仕えた実在の殺し屋で、1975年に失踪した全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファをはじめ、多くの殺人事件に関与したとされるフランク・“アイリッシュマン”・シーランをデ・ニーロが演じるほか、ジミー・ホッファ役のアル・パチーノ、ラッセル・バッファリーノ役のジョー・ペシと、ハリウッドのレジェンド級俳優が豪華共演する。脚本は「シンドラーのリスト」「ギャング・オブ・ニューヨーク」のスティーブン・ザイリアン。Netflixで2019年11月27日から配信。日本では第32回東京国際映画祭のクロージング作品としても上映。配信に先立つ11月15日から一部劇場にて公開。

海外版アウトレイジ、といったところだろうか。とりあえず出てくる役者のレジェンド感がとんでもない。ジョー・ペシ(ホームアローンの小さいほうの泥棒でもある)にしろ、アルパチーノにしろ、当のロバートデニーロにしろ、すごみがエグイ。立っているだけでこっちが押しつぶされそうな威圧感。3時間半もこの空気に耐える必要がある。それだけでしんどい。

物語はとにかく裏社会の話。だれがだれを嫌いだとか誰が裏切ったから殺せとか。でもそれが重々しく嫌にならないのは、ロバートデニーロ演じるフランクが冷静でありながらも家族想い(娘想い)で平和主義だからだ。
殺し屋のくせに平和主義とはどんな矛盾だと思うかもしれないが、ジミーに対してもトニーに対しても恩を感じ板挟みになりそこで考え込むフランクの何とも言えない表情に人生が詰まっているような気がする。
結局最後に娘にまで逃げられ会うことを拒絶され、裏社会を共に生きて忠誠をつくした人たちはみな死んでいなくなったとき、彼は自分自身の人生をどう振り返ったのだろうか。ラストで神父に許しを請い、祈りを捧げるフランクはどんな思いだったのだろうか。
当時のアメリカ社会を知っているとより一層楽しめるかもしれないので、ちょっとケネディあたりの話を探っていくと、見方も深まるだろう。

とりあえずこれはみておこう。歴史的な一作になると感じているからだ。

マフィアだって人間なんだ。その人間というものがまざまざと描かされているのがこのアイリッシュマンなのだ。