昨年大ヒットし、2019年のアカデミー作品賞を受賞した「パラサイト」のポンジュノ監督が2017年に制作した映画。こちらはnetflixが前面的に資金援助し、作られた作品。そのため、これは映画館で放映されず、業界側から「これは映画なのか」と物議を醸した作品の一つ。ちょうどこの2017年あたりを境に、そういった映画業界側と新規業界(主にnetflix)の摩擦が生じていく。結局、カンヌ国際映画祭では、これらnetflix作品を映画として認めず(フランス国内の劇場で公開されない映画は映画ではない)、セレクションから外してしまう事態となり、大きな議論を呼んだ。それは、2019年のアカデミー賞で「ROMA」がノミネートされたときも同様のことが起きた(https://madamefigaro.jp/culture/feature/170523-cannes17-03.htmlを参照)
その後世界的にNetflixなどの作品が長編映画として認められるようになると、2019年のアカデミー賞ではNetflix制作の作品、「アイリッシュマン」や「二人のローマ教皇」「マリッジストーリー」など、計24部門でノミネートされた。これはディズニー政策の23部門よりも多い数字である。

その時の作品賞が「パラサイト」である。アジア映画として初めての作品賞受賞は大きな話題となった。

解説
「グエムル 漢江の怪物」のポン・ジュノ監督が、ブラッド・ピットの映画製作会社プランBとタッグを組んで手がけたNetflixオリジナル映画。韓国の山間の家で暮らす少女ミジャは、大きな動物オクジャの面倒を見ながら平穏な毎日を送っている。優しい心を持つオクジャは、ミジャにとって親友ともいえる大切な存在だった。ところがある日、多国籍企業ミランド社がオクジャをニューヨークに連れ去ってしまう。自己顕示欲の強いミランド社CEOルーシー・ミランドが、ある壮大な計画のためにオクジャを利用しようとしているのだ。オクジャを救うため、具体的な方策もないままニューヨークへと旅立つミジャだったが……。「ハウスメイド」「その怪物」で知られる子役アン・ソヒョンがミジャ役を演じ、「スノーピアサー」でもポン・ジュノ監督と組んだティルダ・スウィントン、「ブロークバック・マウンテン」のジェイク・ギレンホール、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・ダノら豪華キャストが共演。第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。Netflixで2017年6月28日から配信。

この「オクジャ」にしろ、「パラサイト」にしろ、ポンジュノ作品には痛烈な社会風刺や批判的なまなざしがある。そしてそれは誰にでもわかりやすいメッセージとして提示される。「パラサイト」をみれば富裕層と貧困層の乗り越えがたい断絶が垣間見えるし、「オクジャ」では人間の”食”の横暴さ、傲慢さを描いている。
それはおそらくどのレビューでもしっかり語られるし、誰が見ても、おそらく気付ける。宮崎駿のような(ポンジュノは宮崎駿を敬愛している)メッセージをひた隠しにし、あたかも全年齢的な作品を描きながら毒々しい風刺や批判を散りばめていくスタイルと違い、ポンジュノは分かりやすく(全てではないが)指南してくれる。あ、そういうことなんだな、と理解できる。
ただ、オクジャに限らず、ポンジュノ作品の個人的に好きなところは、なによりエンターテインメント性が高いところだ。社会批判だけが先走らず、まずはおもしろい。ドキドキしてワクワクする。次の展開が気になり、キャラクターに愛着が湧く。そこが充実しているからおもしろい。だからオクジャも、まずは楽しめた。その評価がまず私は一番にしたい。その後にメッセージについて考えたい。

主人公のミジャ自身の真っすぐでひたむきな姿勢は映画ぐらいでしかみられない清々しさで、動物解放戦線の人たちもユーモアたっぷりで、妙なシリアスさもなくテーマはしっかりしていながらライトにみられる作品。もちろんおすすめ。