2019年NO.1のヒゲダン

 

今年一番ブレイクして、そして今もっともシーンを掌握しているミュージシャンといえばOfficial髭男dismだろう。そこは揺るぎない。

今年初頭の「Pretender」は映画「コンフィデンスマンJP」の主題歌に抜擢され、さらに夏の甲子園のテーマソングとして「宿命」が作られた。ラジオからテレビまでヒゲダンの曲は流れ続けた。

 

各配信サービスでも軒並み1位を獲得しているヒゲダン。10/28の時点でPretenderはストリーミング22週連続1位。先日出したアルバムも当然1位になった。その人気の理由をオリコンミュージックは

また、音楽性がさらに広がっているのも本作の特徴でもある。ブラックミュージックを中心に、ギターロック、エレクトロなどを自在に取り込み、自らのポップスの枠を大きく広げている。
さらにメイン・ソングライターの藤原だけではなく、他のメンバーも作詞・作曲を担当。楢崎誠(B)が制作を担当した「旅は道連れ」は、メインボーカルをメンバー全員が担当した軽快なナンバー。小笹大輔(G)が書き下ろした「Rowan」はトラックメイクをillicit tsuboiが手がけたクラブミュージック色の強い楽曲で、いずれもヒゲダンの新たな表現につながっている。以前から「ジャンルに捉われず、グッドミュージックを追求したい」と発言している彼らだが、本作によって、そのスタンスは明確に示されたと言っていい。

と分析している。
やはり彼らを語るには「洋楽のエッセンスが詰め込まれている」「多岐にわたるジャンル」「サブスクで聴かれている」は外せないようだ。

確かに今はよりジャンルレスが進み、海外でもLil Nas XにしろBillie Eilishにしろ、ジャンルをひとつにまとめることのできないケオティックな作品は多い。そう思うと、ポップスでありながら、ロックでもありジャズでもありソウルでもあってブラックミュージックにも繋がっているフリーダムな彼らの音楽は時代性を反映したものと言っていいだろう。

 

楽曲の裏にあるブラックミュージック

 

まず皆が口を揃えていう「ブラックミュージック的なバックボーン」は作為的なものなのか。それはインタビューでこう答えている。

藤原 僕は高校時代、地元のおじさんたちがやってたコピーバンドのライブをよく観に行ってて。そこで演奏されてたEarth, Wind & Fireやスティーヴィー・ワンダーの音楽に衝撃を受けたんですよ。そのバンドにキーボードとして参加したのをきっかけに、大人の人たちにいろんなブラックミュージックの名曲を教えてもらったことが僕のルーツになってるとは思います。

さらに

サマソニ」(SUMMER SONIC 2018)で観たチャンス・ザ・ラッパーに衝撃を受けて。彼のゴスペル的なハーモニーのエッセンスは僕らの曲にも入れることができるんじゃないかなって思ったんです。

と、シカゴのヒップホップから触発されてゴスペルなどにも手を出し始めたと語っている。

こうした海外の音楽に物怖じすることなくあっさりと取り入れようと決意してから行動に移るスムーズさはいかにも今時だ。

だからこそ、その多様な音楽性は日本人だけでなく、ペンタトニックスのようなブラックもルーツにあるようなグループにカバーされるのだろう。

 

 

 

ヒゲダンは”軽薄”なリスナー

 

次に、サブスクのヒゲダンとの異名を持つ(勝手に名付けた)ほどの彼らは、サブスクだからこそ彼らの曲が広まったとおもわれがちだが、それに限らない。2018年に、ドラマ「コンフィデンスマンJP」の主題歌に抜擢された時も、フジテレビのプロデューサーがサブスクで彼らを発見してオファーしたという。

サブスクの波及はユーザー目線だけでなく、クライアントにも及んでいるのだ。

 

 

ではなぜジャンルレスな音楽になるのだろう。そこを紐解いていく。

あの方たちはライブが最高で、曲もすごく良くて、ずっと追っかけてるんですけど。それ以外になると、全部の曲が好きだという感じではなくて、アルバムを全部通して聴けるアーティストはなかなかいないし。ブルーノ・マーズとか、めちゃくちゃ大好きですけど、やっぱり飛ばしちゃう曲もあって。

 

なんとなくすごく親近感が湧く。年齢も近いからだろうか、言いたい事がわかる。好きなアーティストは沢山いるしそれは嘘ではないんだけど、アルバム全部通して聴くかと言われると「いやーまぁまぁ飛ばします。その時の雰囲気で」なんて、なりがちだ。それはもしかしたらポータブル世代ならではの手癖ならぬ聴き癖といったものだろうか。ただその好きに動けるフットワークの軽さといいとこ取りを臆する事なくしてしまう無頓着さはある意味我々の世代の強みなのかもしれない。

でもそこはChance The RapperでありHONNEであり、Michael JacksonやBruno Marsに興奮しても、D’Angeloに言及するわけでもRobert GlasperとかCommonでもないしモータウンやあるいはもっとクラシカルなものを嬉々として語る気配もない。もちろん、10代の頃にジャズのバンドを親戚で組まされていた話もあるので、知らないわけではないだろうというのは併記しておく。

だから、それを聞かない選択をしているわけではなく、聴くタイミングがあれば聴くし好きになればそれは取り入れたい、という”いい意味”で軽薄なのだ。この世代の「ルーツとか順序とか正統とか気にしなくてよくない?」というスタンスが音楽にポップさを生むしバンドの軽やかさに繋がっている。

となると、彼らの2020年のツアーフライヤーがThe 1975と酷使していた事、アルバム「Traveler」のラスト「Travelers」がThe 1975の「A Brief Inquiry Into Online Relationships」の「Mine」や「The 1975」に明らかに触発されていることはなんら疑問に感じることもない。

上がヒゲダン

下がTHE 1975

 

 

 

 

 

最近、Maroon 5とかThe1975とかの海外のバンドって、「THEバンド」って感じじゃないじゃないですか。それを考えると、自分たちの楽器の括りに縛られないクリエイティブな集団であることを「バンド」って名乗っていいんじゃないかと思うんです。だから僕らは「バンド」として自分のパート以外にもアイデアの部分で関わりを持つし、場合によっては楽器じゃなくて打ち込みを使ったりもする。いいものを作れりゃいいっしょってことなんですよね。しっかりいい音楽を作って、研究して、いいライブをやって、みんなにハッピーな気持ちになってもらったりとか、時には「Pretender」みたいに人生に寄り添える曲ができたりとか、そういう風にやっていけたらいいんじゃないかなって思ってます。

 

あるいは2018年にJ BalvinやCamila Cabelloといったラテンミュージックがシーンの真ん中に来たときは積極的にサルサ(レゲトンではないが)を取り入れた「Tell Me Baby」など好きを形にしてきた。

もう一つ例を挙げるなら、先にも出てきたChance The Rapperをサマソニで見てゴスペルの良さに気づき、特に「Sunday Canday」を好んで聴いていたらしい。それはおそらく今年の「宿命」でのホーンやストリングスの使い方に活かされているだろうし、その影響は計り知れないはずだ(したがって見事なブラスになっている事は言うまでもない)。

 

 

 

勘違いしてほしくないのは、決して彼らのいいとこ取りなスタイルを怪訝な表情で書いているわけではない。むしろそこには好意すらあって、なおかつそれが容易なことではないということは理解している。ただそれがいとも簡単に(あるいは簡単そうに)吸収できる柔軟さは目を張る。インタビューを読んでいて感じたのは、自分たちの作った音楽を言語化するのか非常に巧みであるということ。コンセプトがあり何を使ってどんな意図でそのサウンドにしたかがいつも明確だ。明確だからやりたい音楽の詰め方がわかる。そしてそらを売れるレベルに持っていけるのだ。
まさしく非凡な才能だなと感じる。

 

まとめ

これから、いまもうすでにOfficial髭男dismに夢中な人たちは、彼らの楽曲に忍び込んだ洋画のエッセンスを逆に抽出することもできるはずだ。今挙げたバンドやミュージシャンたちは決して洋楽が苦手な人たちが思うような堅苦しく難しいものではなく、すごくノリで聴ける気持ちの良いサウンドばかりだ。これを機会に色々聴いてみてほしい。

今年の紅白は間違いないだろうが、どんどん大きくなっても変わらず軽薄に洋楽をつめこんでいってほしい。