2021年になって今更「このアイドルの楽曲がいい!!」と鼻息荒く語るのもなんだかこっぱずかしいのだが、そんな自尊心は捨て、”楽曲派”や”アイドル戦国時代”といった陳腐な表現も投げ捨てて、新たなフェーズに入ったこのアイドルシーンをもう一度しっかり眺めてみようと思う。

SEXY ZONE – RIGHT NEXT TO YOU

音楽オタクたちがこぞって騒いだこの楽曲。以前からのファンにとってはうれしい反面、騒ぎ過ぎにすこし困惑するかもしれない。「ずっと前から素晴らしかったよ!コノヤロー」と言いたくなるだろう。私もその一人である。ひとつ前のNOT FOUNDの菊池風磨のラップを堪能してからこの曲にトライしてほしいなんておもうこともある。ただ、事実として明確にRIGHT NEXT TO YOUは趣が異なっていた。ハウスミュージックを軸にし、余計なサウンドを排除したソリッドなトラックメイキングはKPOPやその先のUS,UKシーンを投影した素晴らしい楽曲だ。全編英語にトライし、しかもその譜割も日本語ネイティブにはできない、英語が堪能な、英詞の楽曲制作に精通した人間によるものであることがすぐにわかる。mやrによるタメ、tやkによるリズムと躍動感。ダンスもジャニーズにはあまりみられないスタイルで、バックダンサーを揃えた鮮やかなMVは鮮烈である。去年リリースしたアルバムでのリードトラック「極東DANCE」も素晴らしいものだったが、自らの出自を「極東」と西洋からの眼差しにフォーカスしたのに対し、そのサウンドがいまだガラパゴスな音圧至上主義のものだったことが気がかりだったが、今作は明らかにワールドスタンダードへの意識が垣間見える。

今作では4人体制で、マリウス葉は休養しているが、またこうしたメンバーをフルに整えられなくてもしっかりパフォーマンスのできる柔軟性も素晴らしい。BTSのSUGAにみられるような、休養があってもメンバーがしっかりとフォローし、「休む」ことが悪ではない、というメンタルヘルスケアの役割も果たしているロールモデルが、日本ではSexy Zoneにあたるのかもしれない。というか、そうであってほしい。働きすぎる日本の音楽グループだが、ここに「しんどかったら休めばいい」をメンバーも、事務所も、そしてファンも共通認識として広めることができれば、素晴らしいことなのではと思う。サウンドだけでなく、活動形態すらも海外の最先端にアップデートしてきている、最高のグループであることはもはや自明の事実である。

lyrical school – TIME MACHINE

楽曲派アイドルとして何年も活動を重ね、度重なるメンバーチェンジを経て、ある意味ひとつの完成形にたどり着いたのではという感すらある最近のリリスク。個人的には過去に「リリスクが好きになれない」と記事も書いたくらい、思い入れが薄くなってしまったグループの一つだったのだが、それでも新曲を聴くたび唸らされる。今回ドロップされた新曲は「TIME MACHINE」。冒頭からカマしてくるキレキレのトラックに軽快で切なさをにじませるラップが乗っかったと思えば、現行ヒップホップシーンを追従するようなフロウが追い打ちをかけてくる。展開毎に色を変えてくるその器用さもさることながら、グループとしての完成度の高さが尋常でない。明らかに異常なクオリティのライムが耳から離れず、リピートさせる。いま最もホットなKMを据えてくるあたりもリリスクらしいアグレッシブさと妥協のなさだし、もはやこれ以上の賛辞が見当たらないレベルである。とんでもないアルバムが期待できる。

ATARASHII GAKKO! – NAINAINAI

以前から、新しい学校のリーダーズとしてアイドル活動を行っていたが、今回この楽曲で88risingからデビューし、世界に向けて発信することとなった。すでに再生回数は100万回を突破し、88rising効果も大きいところであるが、そのクオリティもあってこそであるのは言うまでもない。 元々面白い楽曲が多かったグループだったが、今回はさらに世界のトレンドを意識した新しいアプローチのサウンドで、明らかに今までとは一線を画している。決してアイドルと公言しているわけでもなく、そしてアイドル的な売り方をしているようでもないが、今回はこの括りに入れさせてもらった。

――いきなりですが、みなさんはアイドルですか? アーテイストですか? MIZYU パフォーマンス集団ですかね。 SUZUKA 最近つけたのは「歌い踊る青春日本代表」です。ただ、視点、見え方はいろいろな数あっていいかなと。それだけ私たちの見え方があるってことだから。 RIN 「アイドル」でも「アーティスト」でも、どう感じるかはその人次第だと思います。

TikTok60万フォロワーの4人組・新しい学校のリーダーズ。無名だけど世界デビュー

ヒップホップのエッセンスを盛り込み、フロウまできっちりとキメきっているのは本当に抜かりなくて最高だし、だからこそ88risingなんだなと納得する。リリスクとはまた違った日本語の気持ちよさと語感を生かした新鮮なリズムが素晴らしい。エッジ―だと思うのは、やはりそのトラックの起伏の少なさと音数の少なさだろう。構成自体もシンプルだけどかっこよさとキレが維持されているのはあまり日本ではみられない。

まとめ

以上が今私が鬼リピしているグループ三組を紹介した。”アイドルにしては”ではなく、日本の音楽シーンを俯瞰しても突出してクオリティの高い3曲であることは加えて伝えておきたい(アイドルか否かという話も含めて)。いずれのアーティストもフルレンスのアルバムが期待される(Sexy Zineはベストアルバム)し、どんどん面白いアーティストが出てきて本当にワクワクする時代だなと興奮もしている。